「これ!」
ヨモギ君が掲げたリュック。
中身はこれでもかと詰め込んだマシュマロ。
私の小遣いの結晶だ。
「……それが、どうなさいましたか?」
「しらないの? マシュマロはゆうじょうのあかしなんだよ」
「だよ!」
イカネさんは理解ができないと眉を寄せた。
「だから、これをあのひとたちにあげたらなかよくなれるよ!」
「よ!」
「んなわけないじゃん………」
響が皮肉のようにつぶやいた。
まったくもって同意見。
ヨモギ君とマシロ君がマシュマロで仲良くなったのは事実として、それが他に通用するかといえば、大違いだ。
しかし、美少年ふたりの瞳はキラキラしている。
マシュマロに対する信頼がすごい。
イカネさんはやがて諦めたようにため息をついた。
「………はぁ。仕方ありません。試すだけ試しましょう」
リュックを取り上げて、開封したマシュマロを宙にばら撒く。
それはイカネさんの起こした強風に乗って、向かってくる実験動物達を襲う。
マシュマロのつぶてだ。
ああ、私のお高いマシュマロが………。
先輩に経費として請求していいかな、いいよね………?
私のマシュマロ達は、残さず実験動物達の口に入る。
あら、素晴らしきコントロール、流石はイカネさん、美人。
せめて美味しく味わってくれ。
拝むように手を合わせた。
しかし、奴らの速度は緩まない。
イカネさんは様子見をやめた。
「いきます」
「だめぇっ!」
ヨモギ君が飛び出して、あちらとこちらの間に結界を張った。
五家当主の攻撃を見事に防ぎきったそれが、イカネさんの攻撃を防ぐように立ち塞がる。
「ヨモギ!」
「ヨモギ君!」
「馬鹿! 帰ってきなさい!」
マシロ君と私とヨモギ母が同時に声を上げる。
イカネさんは眉を顰めて発射寸前の雷を消した。
壁の強さは知っている。
この近距離では跳ね返って、こちらが攻撃を受けてしまう。
ヨモギ君は壁の向こう側にいた。
彼の背中側から、実験動物達が迫る。
まさか、犠牲になるつもりなのか。
「やめて! 先輩が悲しむ!」
剣を叩きつけてもヒビも入らない。
強情め。
少ない時間で勝ちの一手を探れるか。
間に合わないと諦め、無惨な最期を覚悟する。
だめだ、私はヨモギ君を任されたのに、先輩になんて言い訳したら。
そんなくだらない思考のせいで、時間を無駄にした。
「ひぃっ……!」
すぐそこまで迫る実験動物達に息を呑む。
それは急に足を止め、五歩の距離を空けて首を垂れた。
波のように最後尾まで傅くのを見届けてから、ヨモギ君は振り返り、胸を張る。
結界は消えていた。
「ほらね、だいじょうぶだろ?」
「ふえぇぇぇぇ」
泣き出すマシロ君をヨモギ母がなだめる。
無言で見守っていた響は安堵の息を吐く。
私は膝から崩れ落ちた。
「もう、危険なことはしないで。………先輩に殺されるかと思った」
「きけんじゃないもん。みんな、ここからでるよ。オレについてこい!」
ヨモギ君の号令に、実験動物達は空間が震えるほどの雄叫びをあげた。
ほんとうに仲良くなりやがった。
マシュマロにきび団子のような効果でもあったのかな。
ただの市販のお高めの美味しいマシュマロに。
『ツクヨミさん、何かした?』