「何を今更。あなた様がわたしくしに求めた役割ではありませんか」
「役割……?」
「学校帰りにファミレスで、一緒にパフェを食べましたね」
それは、私が初めてイカネさんを召喚した日のこと。
放課後に特盛パフェをふたりで平らげた。
「友達は並び立つものだ、困った時には助けるものだと、わたくしの力になってくださいました」
結局、私が先輩にボコボコにされて今に至ったわけであるが。
「役割…………役割か。イカネさんはやっぱりクールだね」
「俯瞰的にものを見なければ、アマテラス様の副官にはなれませんわ」
アマテラス様。
ツクヨミさんとスサノオさんのお姉様。
お姉様の副官だから、ふたりはイカネさんが苦手なのかな。
イカネさんは理論的に行動する。
池の結界も、一目見ただけで見抜く知識。
感情で動いているツクヨミさんとは、もとより相性が悪そうだわ。
「イカネさんはやっぱりすごいひとですね」
「うふふ、それほどでもあるんですよ」
私にはもったいないひとが、友達になってくれている。
釣り合うようになりたくて、鍛えている。
新しく友達希望のツクヨミさんが現れて、私に力を貸してくれる。
私はツクヨミさんに何もしていないから、搾取するだけで。
私、すごく悪いやつじゃん。
『二度もフラないでよ? 私がやりたくてやってるんだから』
『………絆されるのを待ってる?』
『あははははっ』
本人がいいと言うなら、私から言うことはない。
こういう友情の形もあるのだと、諦めよう。
仲良くなりたくて付きまとう、大いに結構。
考えることはやめた。
今はここを無事脱出することをを一番に考えなければ。
疾走する獣、鳥や虫の羽撃き、多くの音が近づいてくる。
警告音だけで終わるはずがない。
ここに来るまでに居た、実験動物たちの檻が開かれたのだ。
真っ直ぐこちらに向かってくるあたり、出入り口は封鎖されているとみていいだろう。
「あの動物たちは売り物なんでしょう? 制御装置がついていますよね」
イカネさんが迎撃姿勢をとりながら訊く。
学校で戦った犬神は、首輪が壊れて暴走したのだ。
逆に、首輪がついているなら従えることができるはず。
「無理。引き渡しの時につけるから、あれらには付いてない……」
響の回答は、期待したものではなかった。
「……仕方ありません。殲滅します」
「だめだよ!」
雷を指先に集めるイカネさんを止めたのは、ヨモギ君だ。
「はなせばわかるよ」
「ボクたちてきじゃないもん」
「あいつら、たすけてっていってるの、わかるもん」
「ねー」
ヨモギ君とマシロ君が頷きあう。
獰猛に襲いにきているようにしか見えないんだが。
子どもの感受性というものは恐ろしい。
それとも、あやかし同士で通じるものでもあるのかしら。
「で? どうやって話すというのです」
イカネさんの厳しい追及に、ふたりは手を繋いで立ち向かう。


