先輩やイカネさん達が足止めしてくれているお陰で、邪魔されることなく中庭に降り立つ。

やけに広い池が水の家であることを象徴しているようだ。

ところどころ突き出る岩と、島を複数の橋が繋ぐ。

中央の東屋に小さな人影があった。

迂回するのも面倒だ。



「おまえ、なにすんだ!」



「………黙れ」



スサノオノミコトに変わり、ヨモギ君を抱えて水の上を走った。

波紋は生まれない。

海の神は水に沈まない。

池に映る月の上に立ち、彼を見下ろす。



「神水流の者とお見受けする」



ヘッドホンを首にかけた小柄な少年が、ボサボサ髪に隠れた目でこちらを見上げた。



「………僕を知ってるの?」



消去法だ。

悟らせぬよう、私は微笑んだ。



「文化祭のお化け屋敷の幻術」



言うと、少年はぴくりと肩をふるわせた。



「白銀の妖狐。あれは君だね」



当たりだったらしい。

少年は小さく頷いた。



「僕は、彼女をこの家から逃してあげたいんだ……」



それから、私が抱えているヨモギ君の狐耳に目を止める。



「………君はもしかして、彼女の子………?」



「……オレ?」



「私たちも、それを疑っていてね。会わせてはもらえないだろうか?」



「なにいってんだよ! いまはマシロだ!」



ヨモギ君の抗議に、少年は首を傾げる。



「マシロ?」



「君たちが攫った鬼の子だよ」



「鬼の子………白髪の………だから、マシロ……」



モゴモゴと喋る少年に、マシュマロから取りましたなんて言わないでおく。



「マシロはどこだ! おまえしってるのか!」



ヨモギ君は私の手をすり抜け、少年の肩を揺さぶる。

私も東屋に入った。



「まっ、まって……っ。僕知らない」



「しらないってことないだろ! かくしてたら、このげぼくがおまえなんてやっつけてやる!」



私、ヨモギ君の下僕なの………?



「ほんとに知らないんだっ。この辺りに牢屋への入り口があるのは分かってる。けど、そこにいるのかも分からないし、それにっ、開け方がわからない……っ」



「そんな……」



ヨモギ君が顔色を悪くし、ガックリと膝をつく。


くそ。



「ここまで来て……」



こうなったら神水流当主を連れてきて開けさせるか。

いや、大人しくこちらの言うことに従うとは思えない。

下手したら戦闘だ。



『私たちの実力を疑ってる?』



『………制圧する』



穏便にすませたいんです。


適当にこの辺潰して、入り口を探すか。

でも逆に埋もれる危険もある。

いやそこはツクヨミさんの強運で……。



『やる? やっちゃう?』



ちょっと黙って。



悩んでいると、隣に金髪美女が降り立った。