瞬間。
「……………」
目の前を龍が泳ぐ。
サメも泳ぐ。
小魚が渦を巻き、敵を捕える。
霞がかっていた思考、術の使い方がわかるようになった。
この海の底のような青い世界、龍たちは、私が作ったものだ。
私の思うままに動く。
「ぱちん」
指を鳴らせば、龍が大型の妖魔を締め上げて塵にする。
サメの集団も、小さいものから大きなものまで食っていく。
私の創り出した海の仲間たちが妖魔のほとんどを無力化した。
「おい!」
先輩に肩を揺さぶられた。
「正気か!?」
正気って何?
「っ!?」
前髪をあげられて、術が解けた。
青の世界が、龍たちが消える。
先輩のお綺麗な顔が、真正面から近づいてくる。
「ななな、なんっ!?」
「よし、黒いな」
それだけ言って、先輩は残った妖魔退治に飛び出した。
「黒いってなにさ!?」
イケメン先輩の言うことは難解だ。
人の顔見て黒いって。
腹黒?
大魔王な先輩には負けるわ。
日焼け?
あまり外に出た記憶はありませんが。
黒クロくろー苦労?
あれ、私がお荷物だと再確認した?
失礼な!
多分今私、術使えてましたよね!
なんならもういちど………。
剣を通して術を使おうとしても、何も起こらない。
霧のように、掴めなくなってしまった。
先輩が邪魔しなければ、なんとなく掴めたかもしれないのに!
むきーっと内心怒っていると、イカネさんが特大の雷を落として今日の任務は終わった。
さすがイカネさん。
今日も美しい。
先輩が戻ってきて、脚に抱きつくヨモギ君を撫でる。
「ご主人様、オレがんばった!」
ほめてとばかりにふかふかの尻尾が揺れる。
「強くなったな、ヨモギ」
「えへへー」
「それに比べて………」
先輩の冷たい視線が私に刺さる。
「………ハイ、スミマセン」
「…………いや、お前はよくやった方だ。褒めてやる」
どうしてこう、上から目線なのか。
「………ははー、ありがたきしあわせ」
恭しく頭を下げると、先輩はその頭を撫でてきた。
こら、やめなさい。
私はヨモギ君じゃありません。
「月海さん、口が笑ってますよ」
イカネさんに指摘されて、顔を引き締める。
不覚。
別に、先輩に褒められても、嬉しくもなんともないんだから。
ほら、その、ドヤァって顔がムカつくんですよ。
「生きてるんですから、次があります」
「次こそは、やったりますよ!」
微笑んでくれるイカネさんに決意表明した。
人知れず、人の為に戦うのだ。
誰に褒められるでもないけれど、褒められたら嬉しいのだ。
ただ、自分はやってやったと、自信を持って言えるようになれば、もっと嬉しい。


