ヨモギ君の鼻を頼りに辿り着いたのは、以前見た物と同じ門構えの屋敷。
神水流家。
「マシロの奪還を第一に、犬神の件も探る」
「あと、ヨモギ君似の美女もね」
「ああ」
私と先輩は、黒のスーツと黒の仮面を身につけ、屋根から堂々とお邪魔した。
先輩に背負われているヨモギ君は、白銀を隠す黒の大きめパーカーを着ていた。
庭に飛び降りると、すぐ植木に身を隠し、周囲を窺う。
ふふっ、スパイっぽくて楽しいかも。
こんな状況でなければ、楽しんでいたところだ。
人影がいくつか、庭を警戒している。
ヨモギ君が鼻をひくつかせる。
「………あっち」
ヨモギ君の指差す方。
明かりが灯り、人の多い場所だ。
「多少のことなら、私が誤魔化すよ」
ウインクつきで言うツクヨミさんは、純粋に楽しんでいる。
ツキの神が味方だと、こうも心強い。
「警備のふりをして紛れることもできるかもしれないが、完全じゃないな……」
弟君の執事喫茶を思い出す。
巻き込まれてからはすぐだった。
「あれは本気じゃなかったもん」
「今はまだ、賭ける時じゃない」
「………そうだねぇ。切り札は最後まで取っておかなきゃ」
「では、侵入経路は……」
先輩は、無言でそこを指差す。
私達は床下を移動することになるらしい。
「王道すぎて、逆に警戒されてそうですが」
「そこで、ツクヨミの出番だ」
切り札はどうしたよ。
「あれ? 実は先輩も楽しんでますぅ?」
先輩はニィッと白い歯を見せた。
無言の肯定。
ツクヨミさんと先輩がいれば、なんとかなる気がした。
最高の仲間がいて、不可能なんてあり得ない。
慢心はいけないが、少なくとも、それくらいの気持ちで挑まねば。
必要以上の緊張は、失敗を誘発する。
ペンダントを握り、深呼吸。
「作戦開始だ」
先輩の号令で、私達は動きだす。