牢屋は地下にあった。
鉄格子を開け、中に放られる。
倒れたそこは、剥き出しの石造り。
「能力者なら特別製の牢に入れるところだが、貴様らならここで充分だろ」
「ははっ、いい気味」
鉄格子を閉める耳障りな音が響く。
私と先に入っていた先輩を笑いながら去っていく彼ら。
暗闇が落ち、足音が完全に出ていってから、先輩に話しかけた。
「………起きてますよね」
「………ああ」
私は火の玉を作り、明かりを確保する。
先輩はなんでもないように起き上がった。
さすが先輩、やられる演技は一級品。
変色した肌色も、土に汚れた傷も、流れた血も、すうっと消えた。
信じていても、直接見るまでは不安になってしまうほどだ。
「まずは状況把握と言いたいところだが……」
外が見えない地下牢。
出入り口はひとつ。
「……無理だね」
「いやお前、式神呼べよ」
「はぁ? こんなじめじめ薄汚いところに天女たるイカネさんを呼べるわけないでしょう?」
「言うてる場合か!」
「お茶もお菓子も無いのにっ……」
「言うてる場合か!」
「オモイカネの手なんて借りる必要はないよ。私を頼れ」
「お前は引っ込んでろ!」
「私の扱いが雑すぎるって……」
ツクヨミノミコトがしょんぼりした。
「先輩ひどいですよ、もっとツクヨミさんに優しくしてもいいじゃないですか」
「そうだそうだ、私にも優しさをちょうだい」
「優しさに飢えてるんです」
「愛してください」
「そこまではちょっと………」
「いいや、もっと欲張ってもいいくらいじゃないかな」
「交互に喋るな! 訳がわからなくなる!」
先輩に頭をはたかれた。
「ひどいよ先輩!」
「先輩はそっちのがお望みかい?」
「だからやめろ!」
再び頭をはたかれた。
「ったく、いつのまにか仲良しじゃねぇか」
「……まあね」
私とツクヨミノミコトの声が被った。
仲良しになれているなら嬉しい。
「さて、冗談はこの辺で」
ツクヨミノミコトは人差し指を立て、いい笑顔で告げる。
「脱獄しようか」
指を振れば、出入り口が開く音がした。
「私の方がオモイカネよりも役に立つって証明しなきゃねぇ」
フッ、と火の玉を消す。
再び闇が訪れる。
コツコツと、近付く足音。
「ったく、見張り役とかついてねぇ」
「仕方ないさ、当主様の命令だ」
「俺もついて行きたかったなー」
「あんな堅苦しい場より、坊ちゃんの監視の方が楽でいいだろ」
「違いねえ」
ガハハと笑う、男の声が二人分。
規則的な足音に、乱れが生じた。
「うわあぁっ!」
物が落ちる鈍い音の後、金属が擦れる音が近付き私の足下で止まった。
「それって」
「ここの鍵」
再び火の玉で明かりを確保する。
ツクヨミノミコトは足下のそれを拾い、牢屋を開ける。
階段下で気絶している見張り役二人を、我々の代わりに牢屋に放り込んで、鍵を閉めた。
「これでよし。朝までおやすみ」
鍵は、彼らの手の届かない階段下に隠す。


