火宮家の門を開けると、当主、以下門下の者が揃って怖い顔をしていた。
「当主、皆様もお揃いで何かございましたか?」
先輩が恭しく頭を下げる。
私も先輩の斜め後ろでそれを真似た。
「……………」
先輩の前に出てきた火宮当主は、右手を振り上げると、鋭い風切り音をあげて先輩に平手打ちした。
「っ!」
私は声を我慢した。
頭から地面に叩きつけられた先輩を冷酷に見下ろして、当主は言葉を発する。
「桜陰。貴様、とんでもないものを飼い慣らしていたな」
当主は、転がる先輩の頭を踵でぐりぐり踏み潰す。
私は身体を硬くして、唇を噛み、先輩に駆け寄りたいのを耐えていた。
『大丈夫だ。先輩には、私の加護がある』
ツクヨミさんが励ましてくれる。
わかっているよ。
部外者の私が出ていく方が面倒になるって。
当主は先輩の顔面を蹴飛ばしてから、踵を返した。
「こやつを牢へ入れよ」
「はっ!」
部下たちが、ぐったりした先輩を持ち上げ、運んでいく。
当主に続いて、他の人たちも撤収しようとしたが。
「待って!」
咲耶が当主の前に飛び出した。
「我の邪魔をするのか」
「お待ちください父さん!」
遅れて来た弟君が、咲耶を庇うように前に立つ。
「お義父さん、お姉ちゃんも同罪だよ! お姉ちゃんも牢屋に入れて?」
同情を誘うように目をうるうるさせ、上目遣い。
当主は咲耶に『お義父さん』と言われた瞬間、不機嫌そうに眉を顰めた。
「父さん! 桜陰と、あの女の部屋は繋がっています。そして、二人の部屋には力の漏出を遮るお札が貼られていました。確実に共犯です」
弟君が咲耶の言葉を補足する。
私は内心で舌打ちした。
『勝手に部屋に入ったんだねぇ。となると、奴らが言ってるのは狐か、鬼か………』
「………その女も牢屋に連れて行け」
「はっ!」
私も力任せに両腕を掴まれ、引きずられるままになる。
あーあ、面倒で大変なことになってしまった。
切なく腹の虫が鳴る。
「…………お腹空いたなぁ」