九月も半分を過ぎた。
火宮の術師に焦がされた我が家の修復には、まだ時間がかかるらしい。
なので今日も私は、火宮先輩の屋敷に家族共々居候している。
もちろん、学校へ行くのも先輩の家から。
私はどこにいても爪弾き者。
肩身が狭いのは、どこにいても変わらない。
現に、放課後の今、私は見知らぬ女子生徒に連行されていた。
ホームルーム終わりに、わざわざ教室までお迎えに来てくださったのだ。
私のようなボッチが呼び出されるなんて、理由はひとつしかないでしょう。
人気のない校舎裏で、彼女は足を止めた。
真っ直ぐ私を指さして、睨みつけてくる。
「あんたでしょ、火宮君に迫った身の程知らずってのは」
やっぱり、火宮桜陰先輩だった。
隠しているつもりでも、見ている人は見ているんだよなぁ。
先輩は学校では人気者。
家ではあんなに嫌われているのにね。
……本人に言ったらしばかれるやつだ。
いや、絶対零度な視線を頂戴するだけかな。
想像して、苦笑した。
見咎められまいと前髪を下ろしたが、間に合っただろうか。
余計な難癖をつけられても困る。
一般人相手に霊力で脅す真似はしない。
それをしてしまうと、火宮先輩を裏切る気がするから。
イカネさんのために鍛えた力を自分のために使うなんて、私のささやかなプライドが許さないのだ。
だから、ツクヨミさんも、スサノオさんも、出てこないでくださいね。
ざわめく内側に釘を刺しておく。
「あんたみたいなブス、火宮君が相手にするはずないでしょ。勘違いしてんじゃないわよ! 付き纏ってて恥ずかしくないの!? このストーカー!」
テンプレ通りの言い分に、私ははいはいと俯きがちに聞き流していた。
耐えていれば、いずれは終わる。
「第一、火宮君には、あたしみたいな美女がお似合いでしょう。そう思うわよね!」
華やかな巻き毛を振り回す自称美女。
咲耶を見た後だと、どんな美女も霞む。
「火宮君に釣り合うために、美容も欠かしていませんのよ。この美ボディを保つためのジム通い、エステに高級パック、頭の先から足の先まで隙はありませんわ!」
話が長い。
このままでは訓練に遅刻してしまう。
そして理不尽な暴力に耐えるのだ。
………やっぱり、これは先輩のせいだし、先輩なら裏切ってもいい気がしてきた。
『イカネさん、ツクヨミさん、スサノオさん。どうやったら無難に逃げ切れると思いますか?』
心の中で呼び掛けると、返事はすぐにあった。