緊張の夕食を終え、部屋に戻る。
「イカネさん」
呼ぶと、部屋が一瞬で冷えた。
「おかえりなさい、月海さん」
姿を現した金髪美女の微笑み。
周囲に六花を降らせて、雪女のようだが、私の友人の神様である。
「ただいま、イカネさん」
正面から抱きつくと、抱きしめ返してくれた。
いい匂いする。
幸せ。
癒される。
「今日は付き添いできずに申し訳ありませんでした」
「大丈夫だよ。ツクヨミさんとスサノオさんと、ついでに先輩が護ってくれたから」
「俺がついでかよ」
隣の部屋と直通の扉を通って、先輩が入ってきた。
毎度私とイカネさんの逢瀬を邪魔しやがって。
睨みつけると、次いで、ヨモギ君とマシロ君が手を繋いで来る。
お子さまたちは今日も仲良し。
彼らの手には、お土産のクッキーの袋が握られていた。
「何の用ですか?」
「用がなきゃ来ちゃいけねぇのか?」
「当たり前でしょうこのダボが」
「アァン?」
先輩に凄まれて、イカネさんの陰に隠れてしまった。
おそるおそる顔を出すと、先輩はニヤリと笑んだ。
「残念だったな。今日の俺様には用がある」
「私にはない、とっとと去ねや」
「式神の後ろに隠れるお前なんか、怖かねぇよ」
「ちくしょう!」
口は動くが、一度怯んだ体は動いてくれない。
そんな私から興味をなくした先輩は、イカネさんの目をまっすぐ見た。
「あんた、オモイカネっていうんだな」
「ええ」
「アマテラスオオミカミの側近。かなり高位の神のはず。……なぜ月海と契約した? 月海がツクヨミノミコトとスサノオノミコトの生まれ変わりだと知っていたのか?」
先輩の追及に、私も興味がわく。
当時、何も知らない一般人な私と契約する利点などなかったはずだ。
今でも、こんなだめだめな私と友達で居続けてくれている。
………どうしてだろう。
私のことが好きでいてくれてるからだと嬉しいな。
期待を込めて、そっと彼女を見上げる。
考えるようにたっぷりと間を空けて、イカネさんは口を開いた。
「………月海さんが生まれ変わりであることは、知りませんでした」
正面から答える彼女は、どこか暗い顔をしている。
気持ちのいい話ではないのだろう。
私の期待は、裏切られるのかもしれない。


