まだまだ盛り上がる体育館を出て、時折現れる襲撃者を撃退しながら歩く廊下はスリリング。
先輩は楽しんでいる風ではあったが、それはそれ。
私の中の人たちも嬉々として暴れていた気がしなくもないが、それもそれ。
天原月海としては、黒仮面のお陰で散々な目に遭った。
そして我々はついに、目的地に到着する。
そう、私たちに黒仮面を用意した、火宮陽橘の所属するクラスだ。
「君が陽橘の彼女かぁ。……こんな奴と付き合うのは辞めて、俺にしなよ」
「僕のものに近寄らないでくれる?」
弟君の声が聞こえたので、覗き込むと、プリン頭のイケメンから咲耶を庇うように弟君が間に立っていた。
なんだか、とてもめんどくさい時に来てしまった気がする。
火宮の両親は、彼らと少し離れた席でコーヒーとチーズケーキのセットを前にしていた。
「いらっしゃいませ。二名様でしょうか」
燕尾服を着た女生徒に声をかけられた。
執事喫茶のようだ。
「二人です」
「こちらのお席にどうぞ」
案内されたのは、火宮夫妻の隣の席だった。
我々の仮面の下は、嫌いな食べ物を前にしたときのような苦い顔をしていただろう。
それでも、帰りますとは言えないので、嫌々ながら席につく。
よりにもよって飲食店かぁ……。
団子の件もある。
安心して食べられないよ……。
いや、それは火宮家でも同じか?
「おい、ツクヨミノミコト」
先輩に小声で呼ばれた。
「お前の力でなんとかしてくれ」
「おや? 家で鍛えられているから多少は平気なのではなくて?」
「鍛えてるからといって、完全じゃねえ。ヨモギがいないから無理もできない。特に、ここは陽橘のクラスだ。どんだけぶっ込んでくるかわからない以上、避けれるものなら避けたいんだよ」
「そういうことならお任せあれ。もとよりこの身体は毒に耐性ができていないからねぇ。いい感じに避けるつもりだったさ」
私は指先をテーブルの上に滑らせる。
すると、私たちに狙いを定めていた生徒が、興味を失ったように仕事に戻った。
「簡易的な結界を張った。学生程度にはこれで十分よ」
「認識されないようになる術か。流石だな」
「昼間の月のように、目立たないがそこにあるということさ」
これで、注文をとりにくる生徒はいなくなり、それ即ち食す必要もない。
席だけ埋めて、金を落とさない迷惑な客だ。
今回はありがたいので文句は言うまい。
「あくまで認識されづらくなるだけだ。目立つ行動をとれば目立つからね?」
「今はもっと目立つ奴らが他にいるから平気だろ」
この教室で今、最も目立つ人達。
弟君とプリン頭君の喧嘩が激しくなる。