リーンリーンリーンリーン



雨音の中に微かに電話の鳴る音が聞こえた。



「もしもし?餅ちゃんどうしたの?」
「へへ~。さっき渡辺くんから電話かかってきてさー。告られたよー」
「やったね!あのチョコ大活躍だ」
「おっぱいは効果抜群だけど、チョコはダメだったみたいー。甘いの苦手なんだって」
「そんな人いるんだ!」
「ねー。そーいえば、赤星くんもそうなんだってー」
「え?」
「意外とそーゆー人多いのかもー。ご飯のときに困るよねー。あ、これからデートだから、またねー」



電話が切れた。
赤星くんの甘いものが苦手だというプチ情報に、思わず赤く光る水たまりの上で足が止まってしまう。



お菓子を断れることが多かったのはそのせいだったんだ。
保冷バッグの中で動物の生チョコが、『あたくしたちはいつまで寝てればよろしいの?』と問いかけた。



「どこ突っ立ってんだっ!!」
「キャア!」



急に腕がもげるほどの勢いで引っ張られた。
顔を上げると、赤星くんが横断歩道を渡りきろうと大急ぎで私を引っ張っている。
いつの間にか信号は赤に変わっていて、歩道に着いた私たちのすぐ後ろを車が水しぶきをあげて走っていった。



「横断歩道の水たまりで遊ぶなバカッ!」
「ごめっ、ん……」



横から抱きしめられた。
まるでシートベルトをかけられたみたいに赤星くんの腕が上から斜めにかかる。
その大きな胸板に私はすっぽりと収まってしまった。



熱い。
汗が出てきてしまうほど体中が熱い。



「助けてくれてありがと……。考え事してて」
「ったく。しっかりしてくれよ」



離れて初めて気がついた。
私も赤星くんも脚がびしょ濡れだ。
きっとさっき車が通ったときにかかっちゃったんだ。



目と鼻の先にあるクリーニング屋さんまで走り、屋根の下に入った。
コートを振って水滴を落としながら、ハンカチで髪や肌を拭いた。
脚はどうしようもない。



「ぶへっくしょいっ!!」



赤星くんが大きな大きなくしゃみをした。
私が文鎮じゃなかったら吹っ飛んでたよ。
女子はいかにくしゃみをお上品にできるか自分自身と勝負してるけど、男子は風速何メートル?ってくらいの豪快なくしゃみをしたがるのは、気のせいかな?



「うっせーな」
「……自分でもそう思うんだね。おかしい」
「うっせーな。思いっきりやった方が気持ちいんだよ。つーか、ここで何してんの」
「……青先輩家に行った、その帰りなの」
「昼間に帰宅ってことは別れたのか」
「うん。赤星くんはこれから妹さんのお見舞い?」
「そ」
「あ、ハンカチ使う?」
「いらねぇ」



いらねぇ、か。
チョコもいらねぇ、だよね。
あ、でも。
私は保冷バッグから箱を取り出した。



「これ生チョコなんだけど、妹さんにどうかな?余り物だけど、よかったらどうぞ」
「妹あて?」
「うん……」
「直接渡してやって」
「へっ?」