「もしもーし?起きてたー?」
「起きてたよ。どうしたの?」
「心配でかけたんだよー」
「ありがとーう。今ね、ちょうどアイスにも話したところ」
そう言ってから、また仲間外れにした、と言われてしまうと思い、慌てて「宿題見せてもらうついでに」と付け足した。
「いーなー」
餅ちゃんは羨ましがっただけだった。
言い訳がましく聞こえなくてよかった。
女子の友人関係って難しい。
奇数だと特に乱れやすいよね?
女子グループの人数は偶数が望ましいな。
プリクラひとつとったって、400円だと3回取らないと平等に出し合えないけど、偶数だと200円ずつ出せば一回ですむ。
偶数の方が都合がいい事たくさんあるよね。
私はさっきのことを餅ちゃんにも話した。
「いがーい。甘党王子様は肉食だったんだー」
「そうみたい。私はてっきりさ、『他に好きな子がいるから別れたい』とか『二股してごめん。もうしない』とか言われる展開だと思ってたから、びっくりしたよ」
「ん~。これって男女の違いなのかな~。男って性欲強いからさ、全部を彼女に向けることができないんだよ。気を遣う人は特に。あ。でも、セフレがいたって愛情は減らないよ。餅がそうだもーん」
「どういう意味?」
「何人彼氏がいたって、愛の分配が不平等になることはあっても、愛情が無限大だから引き算にならないの。この彼が1番好きっていうのはあるけど、2番目からの彼への愛情がその分減るわけじゃないってことー」
「取り合いになるのがいやなわけじゃないよ」
「じゃー何がいやなの?」
「私だけを見てほしいの……」
「あ~、わかる~。他の子とはしてほしくないよね~。わかるけど、無理かな~。AくんにはAくんだけの良さがあって、BくんにはBくんのよさがあるって話はー、……前にしたよね?」
「したした。栄養の話」
「それそれー。AくんにないものをBくんだけが持ってたりして、どっちがいいなんて選べないの。この場合、どっちも必須栄養素でしょー?」
「でも、AくんにもBくんにも悪いよね?」
「恋人は1人だけってルールならねー」
青先輩の話から餅ちゃんの話へとズレてしまっている。
青先輩は、彼の言葉を信じるなら彼女は一人で充分だけど、餅ちゃんは不特定多数の彼氏がいる。
青先輩と餅ちゃんの恋愛スタイルは若干違う。
型にはまらない恋愛をしている点では共通しているけど。
「セフレなんていてほしくないよ」
「それはよーくわかるけど、餅は甘党王子様の気持ちもわかるなー。浮気を許す許さないじゃなくて、甘党王子様のことが好きか嫌いかじゃない?好きならOKしてあげる。嫌いならNOでいい。私とは合いませんでしたーってだけ。そんだけじゃーん」
「セフレって正しくないよね?」
「正しいとか考えないほうがいいよ~。クルミが気に入らなければふるでいいんだよー」
「そっか。私、正しいかどうか、常識的にどうなのかで考えてた」
「自分がよければいいんだよー」
「ありがとう!さすが餅ちゃん。自由恋愛を地でいく女だね」
「へへーん。いいよー。あ。もしふるなら、次は餅が付き合いたいなー」
「え?それはセフレとして?彼氏として?」
「餅的にはそれ一緒なんだなー」
友達の彼氏を狙うなんて非常識じゃないの?と思ったけれど、餅ちゃんならいいか、という気もする。
恋心を秘密にしたまま虎視眈々と狙われるよりも、こんなにあっけらかんとオープンに宣誓してくれるなんて、清々しいほど正直な子だ。
「ふるかは未定だよ。あ!明後日バレンタインデーだった……」
恋人同士なら盛り上がる一大イベント。
たいていは彼女から彼氏へチョコレートを渡して愛を囁き合う、とびっきり甘い日。
「バレンタイン直前にふるのはかわいそー」
「うう……」
「ホワイトデーもあるし今別れたらもったいないよー。春休みも夏休みも彼氏いた方が絶対楽しいしー」
通年どおりにいけば、バレンタインは友チョコを交換し合って、自分で作ったチョコケーキを家族みんなで食べている日だ。
それで物足りないと思ったことはなかった。
大人になったいつの日か、愛しの人に渡すときがくるんだろうなって夢見てるだけで、現状に不満はなかった。
去年の春休みはアイスと餅ちゃんといちご狩りに出かけたし、夏休みはアイスのお父さんが海に連れて行ってくれた。
冬休みは遊園地で年越しカウントダウンパーティーにも行き、とても楽しい一年を送った。
「……やっぱり、異性にときめく楽しさもなきゃね?」
「でしょ~。あ、一回Hしてみるのはどう~?まだでしょう?甘党王子様の言ってることが理解できるかもよ~。そしたら、クルミだってセフレつくれるし」
「私にいても甘党王子様は平気なんだ……」
「そりゃそーだよ。自分はよくて相手はだめなんてありえなーい」
たぶん、甘党王子様を好きになればなるほど、私は撮り魔を受け入れられなくなる。
大抵の人がそうだと思うけど、恋人が自分以外の人と手を握って歩いたり、キスをして抱き合うなんて我慢できない。
好きだけど、好きだからこそ……。
「彼氏でもない人に体を触られるなんて、気持ち悪いよ」
「外見が好みならだいじょーぶ。きっとねー、甘党王子様は上手だよ。同じ人と長くしてる人は上手だもん。あんなイケメンと初体験なんていいないいな~」
餅ちゃんの意見を聞いていると、たしかに付き合い続けることのメリットはある。
セフレ、それさえ飲み込めれば、この恋は長生きできるのだ。
「電話くれてありがとう。話したら頭の霧が晴れてきたよ」
「いいよー。おやすみー」
「おやすみ」

