駅まで無言で歩いていると、メインストリートの一角から拍手が起こった。
そこから「フー!」と歓声が上がっている。
「なんだろうね?ちょっと見ていく?」
とてもそんな気分ではなかったけど、流行りの曲がピアノの音色にのって流れてきて、私たちはそっちに向かった。
それは駅に置かれている、駅ピアノというやつだった。
誰でも弾いていいし、誰もが無料で聞くことができるピアノ演奏。
曲が終わると、ひときわ大きな拍手が巻き起こった。
それがやむのを待たずに、すぐ次の曲がタラララッと流れてAメロが始まった。
「ドラマの主題歌だ。なんて曲だっけ?」
「……heartbreak」
「……」
このタイミングで失恋ソングがきた。
切ないバラード曲がコートの袖やスカートの裾から冷気のように入り込んできて、やけに悲しい。
別れるかもしれない恋人と並んで失恋ソングなんて聞いてられないよ。
別の曲を、とピアノマンの背中にお願いした。
次は応援ソングがいい。
J-POPでもアニソンでも何でもかまわないから。
ふいに小指を握られた。
見なくても青先輩だってわかる。
「何考えてる?」
小指と小指で約束し合うように、ギュッとしながら青先輩がきいた。
「……」
「言えないこと?……俺はね、くるみちゃんが別れることを考えてないかなって心配してる。今は喧嘩中だけど、俺たちまだ終わってないよね……?」
俺たち、なんだ。
私たちはまだカップルなんだ。
ドン
背中に誰かがぶつかって、そのひょうしに小指がほどけた。
その後ろの人も誰かにぶつけられたようで、たぶん通行の妨げになっているみたい。
私はそこからそっと離れて、駅まで走った。
捜さないで。手をとらないで。
ホームに着いてから、『考える時間がほしいです。ひとりで帰ります』とメールを送った。

