電車を降りると、夕暮れから夜空へと変わり始めた美しい空に一番星が輝いていた。
金星だ。
いつも見えるわけじゃなくて、明けの明星、宵の明星といって、日の出直前の朝方と、日没後の夕方に光って見える星だ。
「宵の明星だ!あっち。……そういえば、今朝も明けの明星を見たな」
「すげぇ早起きだな。……弁当のせい?」
「ううん。漢字の小テストの勉強してたの」
小テストは隣の席の子と交換して丸つけをし合うから、私が10点満点中9点を取ったことは赤星くんも知っている。
いい点数が取れていなかったら笑われてしまうところだった。
でも、テスト勉強なんて小さい嘘をつかずに、そうだよあなたのために早起きしたのとも言わずに、私も『うっせーな』と言えばよかったかもしれない。
使い方は赤星くん流だ。
「なに笑ってんだ」
「なんにも。うっせーな、ってやつ」
うっせーな、なんて言葉は使いなれない。
少し不良になったようで可笑しい。
「たどたどしいな」と笑われてしまった。
「上ばっか見てると転ぶぞ」
「だってきれいなんだもん」
「ただの金星だろ。超高温で、たしか太陽系の中で一番過酷な環境」
「そうなの?よく知ってるね」
「理科で習ったろ。地獄の星って呼ばれてた」
「覚えてないなぁ。そんなに熱い星をこんなに寒いところから眺めてる。なんかあったまるね」
「ぜんぜん」
今一度よ~く目を凝らして見たけれど、とても地獄の星には見えない。
見れば見るほど、むしろ天国の星に見える。
紐を通してネックレスにしたいくらいの。
昔の人が星に願い事をしたり、祈りを捧げるのも当然だと思った。
「そーいや、赤星ってアンタレスっていうさそり座の星の名前なんだぜ」
「そうなんだ!いつ見えるの?」
「夏」
「夏かぁ。あと5か月くらい先だね。赤星って言うんだから、赤く光るの?」
「そう。見たことあると思うぜ」
「今年、必ず見る」
心のメモに書いておかなくても、思い出せる気がした。
赤星くんの横顔を眺めていると、星の観測をして胸がきらめくような、不思議な感じがするんだ。
「あのなぁ。俺を見上げるなよ。お馬鹿さんか」
頭をベシっと叩かれた。
いたいなぁ。
3番出口を出て、ビラを印刷しにコンビニへよった。
大型コピー機に1000円札を入れて、白黒コピーのボタンを押し、部数を100枚、用紙サイズは一枚10円のB5に設定した。
命運を握るビラが排紙トレイの上にどんどん出てくる。
「妹さんはあれからどう?」
「リハビリが痛いらしくて、あたってくる。まぁ、泣かれるよりましだ」
「頑張って歩こうとしてるんだね。よし、私も頑張る!」

