リリリリリリリリ



慌ててデジタル式目覚まし時計のアラームを切る。
05:30 02/12(木)



寝すぎたわけじゃなかった。
カーテンを開けると明けの明星が見えた。
強烈な光をはなっているわけじゃないのに、見つめていたくなる。



赤星くんおはよう。
会ったことないけど、妹さんもおはよう。
ちゃんと眠れていますか?
私はぜんぜん眠れませんでした。



キッチンで自分と赤星くんの二人分のお弁当を作った。
前のリクエストにこたえて、エビフライも揚げた。



お弁当の主なラインナップは、枝豆おにぎり、エビフライ、明太ポテトサラダ、カリカリチーズ巻きちくわ。



ゆで卵は輪切りにして横に倒して並べた。
その白色と黄色の階段を下るとブロッコリーの森があって、その茂みを抜けるとたこさんウインナーがたくさん住んでいる。
あとは果物を切れば完成。



これで少しは赤星くんの気分が晴れるといいな。



お母さんが寝室から降りてきて、「早起きして作ってあげるなんて、赤星くんと仲が良いのね」とあくびをしながら言った。


お母さんにも妹さんの話はしていない。
赤星くんにとって木曜日は頑張る日。
私はその曜日だけ激励のお弁当を作ってあげる約束をした。
そんな約束を知らないお母さんは少し探りを入れに来たのかもしれない。
私はオレンジに大量の水をかけてジャージャー洗った。



「うん。隣の席だから」
「お母さんも赤星くんが好きよ。硬派な感じがいいわ。それに比べて優翔くんは軟派な感じよね」



私は包丁を落としそうになった。
危ない危ない。
オレンジをまな板の上に置いた。



「自分のお弁当は作らないくせに、赤星くんのお弁当となると作るのね」
「それはだって、私とお父さんのお弁当だけでも面倒なのに、他の子の分までは悪いなって」
「赤星くんの分ならお母さん作ってあげるわよ」



……それでは意味ないんだよ。
どっちが作っても、赤星くんにはわかりっこないけどさ。



「手伝ってくれるくらいで充分だよ」
「早起きが苦手な子なのに、変わったわね。友達のためとはいえ凄いわ」
「週に一回だけだから」
「それでもえらいわよ。お母さんだってくるみのお弁当は苦じゃないけど、お父さんのは面倒って思うもの。お父さんのでよ?」
「そうなの?お父さんのこと好きじゃないの?」
「好きよ。でも、これは専業主婦としての義務感からこなしてるのよね。目覚ましが鳴って、ああ二度寝したいわって思うけど、くるみに作ってあげたいって思うから起き上がれるのよ」



私もそんなふうに今日起きた気がする。
赤星くんが頑張る日だから、応援したくなって。
誰だって頑張っている人は応援したくなるものだよね?



「お母さん、私のこと大好きだね」
「そうよ。だから、くるみも赤星くんのこと好きなんじゃないかしら?」



グサリ



まな板に赤い液体がついた。
へぇ、オレンジを切ると中から血が出てくるんだ。



……そんなわけない。
中指が痛い。
オレンジの汁がやけにしみる。
指を見ると、爪先がパックリなくなっていた。



まな板にはアーモンドスライスの欠片のようなものが小さな血の水たまりに浸り、それが切り落とした爪なんだと認識するまでに数秒かかった。