小規模な地元デパートの中にある『たい焼き屋 市来』はまだ営業中だった。



おしながきには、オーソドックスなつぶあんのほかに、いもあん、ずんだあん、カスタードクリーム、抹茶クリーム、そして期間限定のチョコレートクリームと書いてある。



全種類ください、と言いたいところだけど、あいにく1000円しかもらっていない。
お値段は各種だいたい税込み200円ほど。
どれにしようかな~。



たい焼きにも、天然物と養殖物とがあるらしい。
これは焼き型の違いで、天然物は鯛をひとつずつ焼くが、養殖物はたこ焼き器のように一枚の鉄板に鯛の型がたくさんついているから一度に何匹も焼けるもの。



こうなると、数え方に困ってしまうよね。
本物の魚じゃないけれど、天然物や養殖物と呼ぶのなら、『匹』や『尾』を使うべきか。
だけど、ほとんどの人は『つ』、または『個』で言うイメージがある。



もしかして、天然物と養殖物で変わったりするのかな?
養殖物なら、鯛の型からはみ出ている生地を出来上がった後にハサミで切るのだ。
この形にそって切るバリの処理は切り抜きのようで、私は『枚』で数えたくなるの。



う~ん。
どうしたらいいの。
注文内容は決まっているのに、注文の助数詞がわからなくてもたつくなんて。



「すみません。つぶあんふたつと、カスタードひとつと、チョコレートふたつください」



市来は大漁できない天然物だから、くるまでに時間がかかった。
私が犬なら唾液を垂らしてお座りしていたはずだ。



たい焼きってどうして鯛なのかというと、実は初めは丸い形(今川焼)だったけれど売れず、次に亀の形をした亀焼きに変更するがそれも売れず、縁起の良い高級魚である鯛にしたところ三度目の正直で売れた、と言われている。
おめで鯛、ということかな。



本物の鯛も好きだけど、こっちの偽物のたいの方が好みだな。
温かい茶色の紙袋を優しく抱きしめた。
尻尾まで具が入っているといいなぁ。
待っててね、お母さん。