またメールが届いた。
お母さんからだ。



『心配だから迎えに行きます。駅に着いたら教えてね』
『わーい。今着いたところ。よろしくね』
『明るいところで待っててね』


街灯の下で待っていると、お母さんの車がロータリーを回ってこちらへやってきた。



「ありがとう。ただいま」
「おかえり。デートどうだった?」
「楽しかったよ。ケーキ7個も食べた」
「まあ。青先輩に引かれなかった?」
「その先輩は9個も食べたから大丈夫」
「まあまあ。お似合いね。でも、夜道を送ってくれないなんて、ちょっと気が利かないんじゃなくて?」
「夏ならまだ明るい時間帯だよ」
「時間じゃなくて、暗いのが問題なのよ。ほら、赤星くんみたいな彼氏の方が、お母さんとしては安心できるわ」
「そう言われてもなぁ。私は青先輩が……、そうださっきね、赤星くんを城元駅で見たよ」



見間違えかもしれないけど、元気なかったな。
学校では少し落ち着きがない様子だったけど。
青先輩の怒ったような顔を見て、すっかり忘れていた。
赤星くんも遊んでたのかな。
そういえば、あの最悪の日、車の中でゲームセンターに行ってたって話してたな。
もしかして、同じショッピングモールだったりして。
明日、きいてみよう。



「また送ってもらったらよかったのに」
「私の彼氏は青先輩だよ」
「あらそう。でも、お母さんは赤星くん派だからね」
「あらそうなんですね」



赤信号で停まったとき、お母さんにさっき撮った写真を見せてあげた。
青先輩のお顔を見たら直ぐに青空派に寝返るに違いない。



と思ったのに、お母さんは、「まぁ!青先輩ったら俳優みたいじゃないの!くるみにぴったりだわ!」なんて親ばか発言をするものだから、私はあきれて窓の外を眺めた。



「あ」
「なに?」
「ううん。なんでもないよ」



横断歩道を過ぎたとき、思い出した。
あの最悪の日に送ってくれた夜、赤星くんがくれた言葉は、今でも覚えている。
その時の悲しそうな表情まで、どういうわけか一緒に覚えているのだ。
さっき駅で見た表情も、微かに悲しそうに見えた。
赤星くんの周りにだけ、現実を見ろとでも言うように冷たい風が吹いているような。



大丈夫だよね?赤星くん?






『牛乳がちゃんと家に帰ったってわかるほうが安心すんだよ』






家に着くまで、その言葉を胸の中で繰り返し聴いていた。