大男たちが体育館から出てきた。
なかでもひときわ目つきの悪いツンツン頭の赤星くん。
無表情でやってきて、私の鼻と口を大きな手で塞いだ。



「……シップ臭い!」
「仲いいねー。お似合いだよー。あ、こっちー!渡辺くーん!おつかれさまー!」
「どこいくの餅ちゃんっ!」
「クルミ、赤星くん。まったねー」



渡辺くんに抱き着いた餅ちゃん。
こんなところでやめてほしい。



あれ?
さっきよりも餅ちゃんのスカート丈が短い気がする。
……渡辺くんが嬉しそうだ。



グラウンドを通り、校門を抜けて、坂道を下っても、一向に気持ちが整理整頓できなかった。
当然ながら赤星くんは答えが聞けると思っているから、あえて黙っているような感じだ。



餅ちゃんのバカバカ、私のバカバカ。
なんか喋らなきゃ。
とりあえず無言はよくないよね。
しゃべりながら返事を考えよう。
まず何をしゃべろうか。
ああ餅ちゃんのバカバカ。
私のバカバカ。



「夏がまた遊びに来てって言ってたぞ」
「な、ナッツが?う、嬉しい。そんなに美味しかったかな?」
「ウケたのは牛の物真似」
「それは寂しいって合図かな?」
「ただのホームシックだから気軽に会ってやって」
「うん」



会話は終わってしまった。
信号は赤だけど、口は止まってはいけない。
もともとクールで無口な赤星くんから話してくれたんだ。
次は私からいかなきゃ。



捻りだして見つけた話題は、人生17年目にしてやっと違和感を覚えた疑問。



「青信号ってなんで青って言うんだろうね?あれ緑色なのに」
「さぁな」
「緑信号、とは言わないy……」





『昔は緑色のものを青と表現したんだよ』





「聞いたことあった!前に青先輩が、緑色に見えるものを青色って呼ぶ習慣があったって言ってたんだ」



忘れてた。
駅で告白されたときに駅ナカのカフェで教えてくれたよね……。



「牝牛てめぇ、青空とか青先輩とかわざと言ってんのか?」
「ちちち違うよ!……って、青空は自分で言ったんだよ?」
「うっせーな」
「……」
「黙るなよ」
「……」
「おい牡牛」
「牝牛です!もう」
「牝牛でもねーだろ」



あーあ。
またその笑顔だ。
いかつい見た目を一変させて朗らかに笑うとき、そのギャップにやられてしまうんだ。
赤星くんと付き合ってみたい、でもまだ青先輩が好き、というアンビバレントな気持ちが交互に繰り返してきて眩暈がした。



「赤星くん」
「おう」
「今付き合ったら、赤星くんの恋人でいながら青先輩を恋しがるような、恋愛版ホームシックにかかりそうなのがいやなの」
「やっぱタイミングが悪かったか」
「急ぎたくないの」



だって、この恋の種が花を咲かせるのは、どういうわけかわかる。
だからこそ、次はきちんと咲かせたいんだ。



「でもね……、赤星くんが他の子を彼女にするのはいやなの」
「へー」
「へーじゃなくて、もう。……どうしたらいいの?」



素直に気持ちを伝えてみたついでに本人に相談しちゃえ、と顔を上げると、あの岩のような鼻の上に自信たっぷりにつり上がった目が近づいてきた。



「な、なにっ?」
「待ってりゃいーんだろ。俺、彼女は一頭でいいし」
「ち、近づきすぎ!」



側溝に落ちそうなほど体を寄せてきた赤星くんを車道側に押し返した。



「待つっていまいま言ってくれたよね?」
「へいへい」



隣にいてほしい、とは思う。
でも、これ以上近づかなくていい、とも思う。



……まだね。