沈黙を最初に破ったのは、慎也さんだった。



「知り合いなのか?伊織。」



「クラスメイトなんです。私たち。」



答えない伊織の代わりに玲蘭が答える。



「...じゃあ、難しいかな。家族になるのは。」


「なんでだよ。」


「だって、いろいろあるじゃないか。」


「は?てめー、ふざけんな。

俺はさ、そりゃ最初はこっちの気持ちも考えずに再婚してぇとか抜かしてきて、ふざけんな、って思ってたけど、

親父の人生だし、まぁ、おれが止めることもないかって割り切ったのに、こんなことで、やめにしちまえるのかよ。

その程度の気持ちだったのかよ。


雨宮のお母さんにすげー失礼じゃねぇか!」



「伊織...。」



「朝比奈くん。やめて。でも、慎也さん、その通りです。私たちがクラスメイトだったからといって、結婚を考え直したりしてほしくないです。」


「玲蘭ちゃん...。」


「母には、幸せになって欲しいんです。それから志穂にも。今日、慎也さんとお会いして、この方なら大丈夫だと、思っていたところなんです。」


「玲蘭...。」


母•真由美と志穂は、目を潤ませた。
志穂はたしかにお父さんと呼べる存在の人がいた方が母親も楽だろうという気持ちもあった。

姉の自分への気持ちも、伝わってきて目頭が熱くなった。


「俺も雨宮なら、家族として、いい関係を築けると思う。だから親父、気にすんなよ。」


「志穂は...?」


「私はね。大賛成!だって自分の部屋欲しいもーん!!」



小学校高学年の志穂としては、自分の部屋がもらえるのはかなりの高ポイントらしかった。


「よろしくな。雨宮。」


「うん。よろしく。」


「ちなみに誕生日って。」


「私、12月よ。12月24日。」


「クリスマスイブじゃん!じゃあ、4月生まれの俺がお兄ちゃんだな!よろしく。玲蘭。」



伊織は手を差し出した。
玲蘭はその手を握り返した。



その手の温もりにドキドキしてしまった。




玲蘭はその日、はじめて、伊織に触れた。