挨拶当日、有名なレストランへ3人で足を運んだ。


志穂は道中ずっとむくれた顔をして歩いていたが、高級レストランの外観を見て、目を輝かせた。


「高そう。」

「きっとごはん、美味しいよ。」



玲蘭がいうと、志穂はまた膨れた。
丸め込まれそうな気がしていたから、最後まで抵抗したかったのだ。



中に入ると、背が高く、細い男性が立っていた。


「慎也さん。」


母親は嬉しそうに近づいた。


「真由美さん。」


母親の幸せそうな顔を見て、志穂は少し表情が曇った。


反対しているのは自分だけで分が悪いし、幸せそうな母親を受け入れられない自分が急に嫌になってきたのだ。


「はじめまして、玲蘭ちゃん、志穂ちゃん。
朝比奈慎也です。」


(あさひ...な?)


伊織との苗字の偶然の一致に、玲蘭は首を傾げる。



「さぁ、中へ行こう。」



慎也は誠実そうで、いい人に見えた。
志穂は悪くないのかな、と思いはじめた。

中に入ると高級ディナーが運ばれてきて、はじめての口の中に溶ける肉を体験した志穂は目を輝かせた。


慎也は食事の途中、2人に切り出した。


「玲蘭ちゃん、志穂ちゃん。僕ね、真由美さんと結婚したいと思っているんだ。」


「私は賛成です。」


玲蘭はいいこぶりっ子な返答をした。



「私は別に。」


志穂はまだ不貞腐れている。



「もし結婚したら僕の家においで。2人にはそれぞれ、部屋もあるから。」


「自分専用の部屋!!!!」



志穂の目の色が急に変わり、慎也も逆に驚いた。


「いいかも、しんない。」


志穂の変わり身に玲蘭はため息をついた。



「2人とは仲良くなりたいな、と思ってるんだ。僕もね、結婚は二度目でね。息子がいるんだけど、ちょっとヤンチャでね....。」


「いくつなんですか?」


「中学三年生なんだ。今日も呼んだんだが、来てなくてね。僕のいうこともなかなか聞いてくれないようなやつで、ちょっと心配なんだけど.....。」



玲蘭は胸騒ぎがした。



苗字が朝比奈、中学三年生って...。




「親父!」



聞き覚えのある声、玲蘭は振り返った。



「.........朝比奈くん。」



「雨宮........。」





振り返るとそこにいたのは伊織。





お互いにしばらくそれ以上言葉が出なかった。