「さむっ」

温室とはうって変わって外は夕暮れでひんやりとした空気になっていた。ちょうどライトも点灯し始めイルミネーションが映えてくる。

少し肌寒いけれど、陽茉莉のほてった頬にはちょうどいい。

「陽茉莉、大丈夫? 夜までいると風邪をひいてしまうかな?」

「ううん、大丈夫! イルミネーション見たいし。あ、でも亮平さんこそ寒いよね? ブランケットあるよ」

陽茉莉はゴソゴソとリュックの中からブランケットを取り出した。それを亮平の膝に掛ける。

薄くて肌触りの良いブランケットは見覚えがある。
一年前、陽茉莉とフラワーパークに来たときも、陽茉莉はそのブランケットを持ってきていて亮平の膝に掛けたのだ。

「……陽茉莉」

亮平はブランケットを撫でた。走馬灯のようによみがえる思い出に感慨深くなり胸がいっぱいになる。

目の前にいる陽茉莉が愛おしくて仕方ない。
好きになってもらうよりも先に、亮平の方がもう一度陽茉莉を好きになっていた。

もう、この想いは止められそうにない。

「好きだよ、陽茉莉」

気づけば口からぽろりとこぼれ落ちていた。
一度こぼれた言葉を皮切りに、想いがどんどん溢れてくる。伝えたい想いがたくさんある……。

「亮平さん……」

「俺は陽茉莉に、前のようにもう一度好きになってもらいたいと思っていたけれど、違ったみたいだ。俺がまた陽茉莉を好きになってしまった。好きなんだ、陽茉莉のことが」

陽茉莉の手を取りぎゅっと握る。断られることなんて考えていない。逃がしたくない。逃げてほしくない。この手に掴み取っておきたい。

強引すぎるな……とチラリと脳内を掠めたが、そんなことどうでもよかった。亮平はこの先も陽茉莉と一緒に人生を歩んでいきたいと思ったのだ。

指先から伝わる亮平のぬくもり。
陽茉莉はそれを敏感に感じ取り、あたたかさと優しさが体中に浸透していった。やがてそれはストンと心の奥に定着する。まるで最後のパズルのピースを見つけたみたいに。

ああ、そうか、と納得した。

なんだか今日はずっとドキドキしていて亮平の言動に一喜一憂してしまう感覚があった。それがなんなのか、よくわからなかったけれど。これがきっと答えだったのだ。

「私も好きです、亮平さん」

言葉にしたらなおのこと愛おしさが増した。
過去の自分が亮平と恋人だったから好きになったんじゃない。
新しい記憶で亮平のことを好きになった。

「陽茉莉、おいで」

「わあっ」

亮平の膝の上にぽすんと陽茉莉がおさまる。そのまま手を体に回し、ぎゅううっと抱きしめた。

「り、亮平さんっ?」

「ごめん、嬉しいんだよ」

あたたかい。
あたたかくて胸の内が苦しい。
嫌な苦しさじゃなくて、抑えきれない想いが溢れかえる。

二人はまた恋をした。
過去には囚われない、新しい恋だ。
苦しいことや泣きたくなることもたくさんあったけれど、またここから愛を紡いでいくのだ。

何の前触れもなくドーンと花火が上がった。
夜空に浮かぶ大輪の花はキラキラと輝き、陽茉莉と亮平の目に焼きついた。

今日という日を、きっと忘れないだろう。