休憩したあとは温室に向かった。
あたたかな室内に色とりどりの花が咲き乱れ、目に鮮やかだ。

「あっ! ここって前に亮平さんと写真撮ったところだ。携帯電話に保存されてたの」

「うん、初めて陽茉莉と写真を撮ったね」

「そうだったんだ~」

うわーと陽茉莉が感嘆の声を上げる。決して記憶が戻るわけじゃないけれど、何かを思い出せそうな気持ちになる。それに、まるで憧れの場所に来られたかのような感覚にワクワクしてしまう。

「ね、ね、また写真撮ろ?」

「いいよ」

陽茉莉は亮平に身を寄せて携帯電話をかざす。
二人がしっかりと映って背景にも綺麗に花が入るように……。

「こうかな?」

伸ばした腕がプルプルしているのに気づき、亮平はくくっと笑う。

「こう、だよ」

反対側から伸ばした亮平の手が、陽茉莉の携帯電話をしっかりと固定した。そしてもう反対の手は陽茉莉をしっかりと引き寄せる。

カシャッ

小気味良い音が響き、陽茉莉は携帯電話を確認する。

「どう? 上手く撮れてた?」

「うん、いい感じ。ほら」

と顔を上げた瞬間、思いのほか亮平の顔が近くにありドッキンと心臓が揺れた。

(わ、わわわわー)

陽茉莉は声にならない悲鳴を上げ、慌てて口を押さえる。
なんだか今日の自分は変だ。
亮平とデートするのは初めてじゃないのに、亮平といるとドキドキしてしまうことが多い。

「どうかした?」

「なっ、なんでもないっ。温室がちょっと暑いなーって」

「そろそろ出よっか?」

「うん、そうだね」

あはは、とごまかしながら陽茉莉は亮平の車椅子を押した。この時ばかりは亮平が車椅子でよかったと思った。陽茉莉は自然に亮平の背後に回れるからだ。

とてもじゃないけど今、亮平に顔を見せられない。
だって頬がほてってたまらないのだから。