何の前触れもなくドーンと花火が上がった。
小さめの花火だけれど、近距離から見るには十分に大きく綺麗だ。

イルミネーションを見ていた人たちもそれぞれ足を止め、夜空の大輪に歓声を上げた。

夏でもないのに打ち上げ花火が見られるなんてなんだかお得だ。

打ち上がった花火が花を咲かせパラパラと散っていく様を見ていると、センチメンタルな気分になってくる。

「私、亮平さんのことが好きです」

突然陽茉莉がそう口にした。
思いもよらぬ言葉に亮平は目を見開き、そして黙り込む。

ちょうど花火の合間で、しん、と二人の間に沈黙が訪れた。

「……何か言ってください」

「ああ、いや、その……」

亮平は手で口元を覆う。
嬉しいのに戸惑いが大きく、どう対処したらいいのかわからない。

「……ごめんなさい、困らせちゃいましたよね。今の話は忘れてください」

陽茉莉はしゅんと肩を落とす。
思わず口走ってしまったことに後悔の念がわき上がった。

ああ、これで、次はなくなった。
花火が終わったらバイバイと別れて、それでまたいつもの日常に戻る。
そう思うと今日という日は夢のような一日だった。

「……帰りましょうか」

陽茉莉は車椅子のハンドリルに手を掛けようとする。が、繋いでいた手をぐっと引っ張られてその場に留められた。

「待って。違うんだ」

焦りを含む声音に陽茉莉は真っ直ぐに向き合う。
亮平は何かを伝えようとしている。それなのにそれっきり亮平は口を閉ざしてしまった。

亮平は躊躇う気持ちで目が泳いでしまう。
いい歳をした大人なのに情けないことこの上ない。
けれど陽茉莉はじっと次の言葉を待った。

その間にも花火がいくつか打ち上がり周囲で歓声が起きた。
二人は向き合ったまま、しん……と、まわりの音は耳に入らない。

やがてゆっくりと亮平の口が開いた。

「……嬉しいんだけど、その、陽茉莉は嫌じゃないの?」

「何がですか?」

先ほど同様、焦っている気持ちが声音から感じ取れる。
亮平の言わんとすることがわからず陽茉莉はコテンと首を傾げた。
亮平は言いづらそうにしながらもゆっくりと続きの言葉を紡ぐ。

「……俺は車椅子だから」

「何か問題がありましたっけ?」

あっけらかんとそう言われると言葉に詰まる。

女性問題で今まで散々嫌な気持ちになった。
だから自分は問題だらけだと思っているけれど実は問題ではないのだろうか?

いやいや、そんなバカな。
綺麗事なんてどうにでも言える。

……とは思うのだが。

陽茉莉だけは違うのではないかという期待もしてしまう。期待させられてしまう。