「陽茉莉は甘い物好き?」

「大好きですよ」

「だからレトワールで働いてるんだ?」

「そうなんです。最初はパティシエとして働き始めたんですけど、お客様の笑顔が見たくて店舗スタッフにジョブチェンジしました。ケーキを買ってくお客様がニコニコ笑顔でいるとこっちまで嬉しくなるっていうか」

そう話す陽茉莉はとても嬉しそうで、一度だけ見た陽茉莉の制服姿を思い浮かべて亮平はうんと頷いた。どう考えても客より陽茉莉の方が笑っているだろうなと想像する。

「陽茉莉にピッタリだね」

「はい、楽しいです。亮平さんはどんなお仕事されてるんですか?」

「市場動向を予測して客先のリスク管理や投資戦略をサポートする仕事かな」

「なんか、難しそう」

「そう? 例えばレトワールの需要や市場動向を分析してメニューの開発や在庫管理に役立てる仕事って言ったらわかりやすいかな?」

「効果的な経営戦略を立てる……みたいな?」

「そうそう、そんな感じ。でも俺にはよっぽど接客業の方が難しいと感じるよ。陽茉莉みたいにニコニコ笑えない」

社長という役職柄、愛想よくしなくてはいけない場面は多々ある。けれど陽茉莉のように屈託なく笑うことは亮平にはできそうにない。一応ビジネス向けの営業スマイルはしているつもりだが、上手く笑えているか自信はない。

それなのに陽茉莉はキョトンとした。

「今日はよく笑ってくれますよね」

「……それは……」

亮平は一瞬言い淀むが、口は勝手にスルスルと動いた。

「陽茉莉といると楽しいから」

「ふふっ、私もです!」

ぱあっと笑う陽茉莉はやはり明るくて、荒みがちだった亮平の心を明るく照らした。

先ほどまでの嫌な気持ちは春風と共に吹き飛ばされてしまった気分だ。