「クレープ美味しそう。亮平さんはどれにします?」

結局、温室に向かう途中にキッチンカーエリアがあり、陽茉莉は真っ先にそこで足を止めた。甘い香りやスパイシーな香りが風に乗って鼻を掠めていく。嗅覚が刺激されて急に小腹が空いた気がした。

「……いちごホイップカスタードかな」

「あっ、私も狙ってました。じゃあ私はバナナチョコにしようかなぁ。すみませーん」

陽茉莉は亮平の分も一緒に注文し、まとめてお金を払った。キッチンカーの受け渡し口は微妙に高い。陽茉莉が受け取り、亮平へ手渡す。

「はい、こっちが亮平さんのクレープ。いちご美味しそう~」

「ひとくち食べる?」

「えっ、いいんですか?」

キラキラと目を輝かす陽茉莉はとんでもなく嬉しそうで、そんな姿を見ているだけで亮平も嬉しくなってくる。

こんな感覚は久しぶりだった。
そもそも「デート」に誘うこと自体が亮平の中で革命的だった。
まさか自分からそんなことを口走るとは思わなかったのだ。

だけどこうして二人でフラワーパークを散策して、綺麗だね、楽しいねと分かち合い笑い合う。
とても穏やかで幸せな時間は亮平の心をゆっくりと溶かしてゆく。

陽茉莉のことを大切にしたい。
そう思う気持ちが芽生えたとき、亮平の中でブレーキがかかった。

走馬灯のようによみがえる思い出がある。
忘れたくても忘れられない、亮平の心に傷を刻んだ思い出が二つ。

――ごめんね、亮平。私は普通の人と付き合いたい。

――やっぱり無理。この先もずっと介助しないとって考えたら私ばっかり損をする気がして。

どちらも、かつての恋人が最後に言った言葉だった。