「……申し訳ありません。今日はプライベートなもので」

「……そうですか」

「お声がけいただいたのにすみません。ありがとうございます」

当たり障りのない社交辞令を述べて話を切り上げた亮平は、陽茉莉の元へ車椅子を移動させようとハンドリムに手をかけたのだが。

「亮平さん! お待たせしてすみません。さ、行きましょうか」

慌てて走って戻ってきた陽茉莉はハンドグリップをぐっと握って車椅子を押す。ぐんぐんと進んでいく陽茉莉の耳には「えー、何あの子」と非難の声が耳をかすめたが聞こえないふりをした。

「……陽茉莉?」

無言でいる陽茉莉をいぶかしがって亮平が声をかける。

「あ、えっと、車椅子専用の休憩スペースがあるんですって。そこに行きましょうか?」

「え、ああ、うん」

何となく陽茉莉の様子がおかしい気がしたけれど、背後にいるためしっかりと表情を見ることができない。もどかしく思いながらもどうにもできない自分にイライラした。

一方の陽茉莉は車椅子を押しながらモヤモヤとした気持ちを抱えていた。なぜこんなにもモヤモヤとするのか。さっきまで楽しくて仕方がなかったはずなのに。

先ほどの光景がよみがえってくる。

(亮平さん、女の人に囲まれてた……)

別に亮平から声をかけただとか、彼女たちに興味がありそうだとか、そんな風には思っていない。ただなんとなく、陽茉莉とのデート中に他の女性と一緒にいたのが気に食わなくて……。

(……完全に嫉妬だ)

陽茉莉はうなだれる。
自分はこんなにも心が狭かっただろうか。
こんなにも嫉妬深かっただろうか。

過去の自分に問いかけてみてもこんな気持ちになった記憶がなく、ますます困惑する。