順調に交際を進めた一年後――。

朝早くに陽茉莉はすっきりと目覚めた。今日は亮平との結婚式だ。春の朝は季候が良くいくらでも寝ていられそうなのに、やはり緊張しているのか、眠気は襲ってこない。

慣れ親しんだ実家も今日で家を出ると思うと少しもの悲しい気持ちになった。

結婚式は親族のみで執り行う。とはいうものの、新郎新婦は支度に時間がかかるため、両親より先に家を出ることになる。

いつも通り母が朝食を作ってくれ、陽茉莉はいただきますと手を合わせてから口に運んだ。母の味は食べているそばから恋しくなり目頭が熱くなった。

「陽茉莉、いつまで食べてるの? もうすぐ長谷川さんがお迎えに来てくれる時間じゃない?」

「あっ! やばっ!」

思い出に浸っていた陽茉莉ははっと我に返り、残りを慌ててかき込む。
のんびりしている場合ではない、急がなくては。

「もう、騒がしい子ねぇ」

それがまた可愛い娘の魅力なのだけど、と母はくすりと笑う。いくつになっても娘は娘。可愛くてたまらない我が子の旅立ちに感慨深くなった。

陽茉莉はバタバタと支度をし、最後に自分の部屋で寝る前まで書いていた両親への手紙をカバンに入れた。何を伝えようか悩みに悩んでようやく完成した一枚だ。

文章を書くのはあまり得意ではないから手紙はなしにしようかと考えたりもしたが、自分の置かれた境遇に両親はとことん付き合ってくれた恩があり、気持ちを伝えるためにも頑張って書いてみようという気持ちになったのだ。

「はー、緊張するなぁ」

書いたはいいが、上手く書けたとは思えない。何かもっと良い言葉があるような気がしてならなかったが、残念ながら時間切れだ。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

「またあとで」

陽茉莉は長谷川の車に乗り込む。そこにはすでに亮平が乗っていて柔らかな笑みを浮かべていた。

春の空は霞がかっているのにどういうわけか今日は冬の空のように青く澄んでいる。雲ひとつない、快晴だ。
絶好の結婚式日和に背筋がしゃんと伸びた。