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撫子はアパートの鍵を閉め大家に渡し階段を下りると、そこには高級な車が停まっていた。
黒いスーツを着た外国人の男が車の横に立っていて、撫子が頭を下げると男は後部座席のドアを開ける。
中で長い足を組み革張りのシートに座っていたのは銀のような長めの髪と濃紺の瞳、品の良いスリーピースのスーツに身を包んだ男が手を伸ばす。
「終わったか、撫子」
「うん、全部終わったよ」
その手を撫子は取ってシートに座り、車は動き出す。
目的は成田空港。
撫子はイオンと大学在学中正式に婚約、大学卒業後結婚すると言うことで少し前に撫子は卒業式を終えたばかりだった。
「寂しいかも知れないが時折日本に戻ってくれば良い。俺も一緒に行く」
「そうだね、その際はお墓参りもしたいし。
偽の婚約者として行ったあの国で、正式に妻となりに行くんだから不思議」
「国と結婚するんじゃ無い、俺とだ」
ごめんごめん、変な日本語でしたと撫子は笑う。



