王の命じた、記憶を蘇らせた女性を婚約者に、それは人間の女を連れてこいと言うこと。
その相手にどうしても撫子にしたくは無い自分がいる。
この心優しい女性には普通の世界で生きて欲しい、ただそう願うだけだった。
そんな時間が一月半ほど経ったある日、撫子がバイトから帰ってくると床にあぐらをかいて座り難しい顔でスマホを見つめているイオンを見て声をかけた。
「どうしたの?」
イオンはずっと連絡を取り合っていたアミルからのメールから視線を撫子に向ける。
「王のお加減が芳しくないらしい」
曇った表情で告げた様子から、イオンにあまり良くない状況なのだと撫子は感じた。
「例の国に戻れる条件、それって今の王様がいるのが前提って事だよね?
もしも他の人になったのなら?」
「王位継承権は王の兄上に行く。
その方は現国王の側近や味方の貴族、ようは我がワイズミュラー家などを敵視している」
「それってお兄さんが国王になったらイオンが国に帰れなくなるんじゃ」



