撫子も何故ここまで必死になるのかわからない。
自分の両親は幼い頃に事故で亡くなりその後親族に引き取られたが居心地が悪く大学入学とともに一人暮らしを始めた。
イオンが側にいるのは不思議と嬉しい。
外見が王子様のように麗しいからなのか、それともあの吸血されたときの高揚感を味わいたいと思っているのか、それともただ寂しくて誰かにいて欲しいだけなのか。
ただ出て行かないで欲しいという気持ちは、いつも異性に対し受け身な撫子にとって意外すぎる行動だった。
イオンはじっと自分を見上げる少女のような撫子に頭を抱えそうになる。
やはり彼女から男を誘う香はしない。
ただ彼女の思いのようなものが伝わってきて、それはしばらく旅をしていたイオンには安らぎのように感じる。
甘い血の味のする乙女の側にいるべきでは無い。
だが彼女の手を払いのける勇気はイオンには無かった。



