国外に出たことは何度かあるものの、同族が管理する場所に泊まり過ごす場合が多かったため人間の世界に一人で放り出される事はヴァンパイアにはリスクが高い。ただ何のつても無く放り出されたものの金があるのは幸いだった。
何とか旅をしてまさか日本に来たが、こんな子供を吸血するなど本来ありえない。
どんな状況でも誇りを失ってはならない。
知らずに閉じていた目を開ければ、狭いベッドで先ほどの娘を抱いたまま寝ていたことに気が付いた。
撫子の顔は少し苦悶しているようなのに対し、イオンの飢餓感は消えている。
極上の美酒を飲み、良い食事をしたような心からの満足感だ。
しまった、まさか指からとはいえここまで吸血するとは。
初めての娘にはかなりきつかったはずだと、イオンはひたすらに反省していた。
娘の身体からほのかにニンニクの香りがする。
日本人にしては少し茶色い髪、幼い顔。
初めて出会った外国人にここまで優しくした相手に対して酷い仕打ちをしてしまった。
謝罪と礼をしなければならないが何をして返すべきか、そもそも許してくれるのだろうか。
段々カーテンの隙間から差し込む陽は明るくなってきている。
自分の腕で眠る娘の顔を見ながら王に言われたとある言葉を思い返し、やはりそれは無理なのだろうと嘆息した。



