「久我君、今日は一日ありがとう」
「こっちこそありがとう。楽しかった」
夕方、鬼頭を駅まで送ると、嬉しそうに笑ってくれたからホッとする。
「宝生さん、あんまり彼氏さんのこと好きそうじゃなかったね」
しかし、このまま帰るだろうと思っていると、鬼頭はうーん、溜め息をつく。
「何だろ、女の直感? そう感じたんだよね」
「勘違いじゃない?」
「何となく、あれは昔の男を引きずってるように見えたけど?」
「ほら、もう電車来るから」
昔の男って……一瞬自分の顔がチラついて、俺は苦笑する。
気まずく思われているのは分かるが、最後の告白から七年も経っているし、引きずっているってそれはないだろう。
離れている時、極たまにだが宝生のことを考える俺の方が、ある意味彼女のことを引きずっていたのかもしれない。