「あぁ、大学のゼミの仲間。論文の資料集めにこっちに来てて」

「そう、なんだ。美人だね」

 笑う宝生は景色を眺めたまま、まだ動く気配を見せない。

「戻らないの?」

「もうちょっと見てから戻る」

 青木から告白されたと聞いた宝生、せっかく彼氏がいるのに、友情がこじれて大変そうだ。

 青木のことはこのままきっぱり断るつもりなのだろうか。

「雅君、先に戻ってていいよ」

「ん、そっか。じゃあ、そうする」

 邪魔だろうと思って、俺は宝生を残しまま来た道を引き返す。

 角を曲がる際にチラリと後ろを振り返ると、まだ宝生は黙って庭園を見ていた。