「やば、うっかり言っちゃった。
ごめん、こんな人がいるとこで言って。でも迷惑かけたいとかいうわけじゃなくて…。」


「…大丈夫です。」


「もし俺のせいで何かされたりとかしたら言ってね。そいつら潰すから。」


「え、怖…。」


「あ、想像したら、つい。」



その日から、“城山奏は秦野芽衣に相当惚れていて、いじめる奴がいたら潰すとまで言ってた”という様な噂が流れた。

嘘ではないのかもしれないけど、聞く度にちょっと恥ずかしいし、先輩ファンを煽ってる状況にもなってる気がして、早く噂が収まってくれないかと思っている。


「無理。もう学校来たくない…。」


「えぇ、そんなに?」


「そのへん歩いてるだけでチラチラ見られるし、全く知らない人に急に嫌味言われるし、疲れた……。」


「今まで先輩に特定の人ができたことない、っていうのも理由のひとつとしてありそうだね。
みんなの先輩だったのに〜、みたいな。」


「確かにそんなこと言ってる人もいた。先輩は物じゃないのに。」


「困っちゃうね〜。」


紗良ではない人の声が後ろから聞こえる。


「先輩。」


「おはよう、秦野ちゃんとお友達ちゃん。」


「おはようございます…。
なぜうちの教室に?」


「秦野ちゃんの顔見に来た。
それよりごめんね、俺のせいで迷惑かけて。」


「別に先輩のせいではないですよ。
それになにかされたわけじゃないですし。」


「ほんと秦野ちゃんは優しいなぁ。
でも一応これ、持ってて。」


先輩は、親指の爪くらいの大きさしかない小さい黒い瓶を私にくれる。


「なんですか?これ。」


「ん〜、お守り的なやつ。
肌身離さず持ってると効果絶大。」


「そうなんですね。ありがとうございます。」


吸血鬼が存在すると知った今、先輩が言うお守りもほんとに効果がありそうで、私はとりあえず胸ポケットにしまった。