どのくらい待っただろうか。


もう一時間以上、由里は駅でアキラを待っていた。


——もしかしてすれ違った?もう家に帰ってるとか?


実はアキラと連絡先の交換はしていなかった。


以前、こんな話をしたことがある。


「え?アキラ君、スマホ持ってないの?」


連絡先が分かった方が何かと便利かと思い、由里はアキラに連絡先を聞いたが「俺、スマホ持ってないよ」という回答が返ってきて、由里は驚いた。


アキラは、えへへ、と笑ってから「実はスマホ、捨てたんだよね。」と言った。


「え!?捨てた??」


「そう。他の人と連絡とるの嫌になってさ。今の会社から貸してもらう社用スマホしかないんだ。それも繁忙期しか持たされないからなあ。」


「そうなんだ…。」


アキラの話しぶりから、スマホに連絡が入ることにあまり良い思い出がないのかと思い、由里はそれ以上何も言えなかった。


その時のアキラの顔を思い出して、涙が滲んできた。
こういう時のために、せめて社用スマホの番号だけでも聞いておくんだった。