…それにしても。
さっきから、すれ違う人がチラチラとアキラに目を向けてくる。
今日のアキラは、ストレートジーンズとTシャツにスニーカーとキャップを合わせ、シンプルな服装だ。決して目立つ格好をしているワケではない。
だが、長身で綺麗な顔立ちをしている彼からは、人を惹きつけるようなオーラが放たれていた。
しばらく一緒に暮らしていたせいか、由里はアキラが世間一般でいう「イケメン」の部類であることを思い出した。
「あ、そこのお兄さん。ちょっと話聞いてくれる?」
突然、スーツを着た見知らぬ男性から声を掛けられた。
「はあ、何でしょうか?」
アキラが珍しく塩対応をしているのを見て、由里は少し驚いていた。
——割と人当りいい雰囲気でいつもいるのに、どうしたんだろ。
「私は芸能事務所の者なんだけど、キミ、モデルとか興味ない?」
男性が名刺を差し出すと、某大手事務所のロゴが一瞬見えた。
どうやら芸能事務所のスカウトに引っかかってしまったようだ。