しばらくすると、青年が由里の指を咥えたまま傷口を吸ったので、由里は思わず「ん…!」と声を上げた。
その声でハッとした青年は、やっと我に返ったようで、由里の顔を見つめ、慌てて由里の指から唇を離した。
「すみません、俺…っ、ついいつもの癖で…」
「いつも?」
思わず由里が聞き返すと、青年は黙ったまま目線を下げてしまった。
お互い無言になり、気まずい空気が流れる。
由里は雰囲気を変えようと、慌てて話題を変えた。
「とりあえず!ご飯作るから待ってて?あ、親御さんと連絡とれるかな?」
「…俺、両親いません。」
「あ、そうなんだ…。」
——やっぱり、何か複雑な事情があるんだ。
場の雰囲気を察し、あまり踏み込んだ質問をするのはやめようと思った由里は「とりあえずテレビでも見ながら座って待ってて?」と言って彼をソファに誘導して座らせた。
彼は言われるがまま、といった様子でソファに腰かけ、呆然としている。
——何かあったんだろうな。今はそっとしておいてあげよう。



