「すみません、寝ちゃってました。」


「わあ!!…っ」


考え事をしながら豚汁用の野菜を切っていた由里は、後ろから突然聞こえた声に思わずビクッと体を震わせた。
その勢いで指先を切ってしまい、思わず傷口に唇を当てる。少し深めに切ってしまった傷口は、しっかりと血の味がした。


「いてて…。ごめんごめん、ちょっと考え事をしててびっくりし——」


その瞬間、由里の手が青年の手にかっさらわれた。


由里が抵抗する間もなく、青年は由里の傷口に唇を当てる。


由里は自分の指が青年に咥えられているところを唖然として見つめた。


舌で傷口から血を拭い取っているのが、指から伝わる感覚で分かった。


青年は目を閉じ、傷口を舐めるのに集中している。


異様な光景にも見えたが、青年の整った顔立ちと雰囲気が、その光景を神秘的なものに見せているように思えた。


青年の様子に思わず見とれてしまった由里は、しばらくそのまま、何も言えずに、自分の指が咥えられている様子を眺めていた。