部屋へ入りお互いがソファの定位置に沈むと、さっそく晴士からの詮索が始まった。


「例の生徒、やっぱ同一人物っぽい」

「うわっまじで! まぁ、とりあえず乾杯」


ビール缶を突き出す晴士に、同じ仕草を返す。喉の奥へと一気に流し込んだそれは、冷え具合がやや物足りなかったが、思わず笑みが零れてしまうほどに美味かった。


晴士が『さっき来た』と言えるような奴だからこそ、今があるのだろう。


「悪い晴士、ちょっと場所移動する」

「えっ、いきなりどしたの?」

「しばらく筆握ってないから、描きながら話そう」


作業部屋へ移ると、まずは隅に寄せていたテーブルと椅子を持ち出し、簡易的な宴席を作る。


「で、もしかしてイットの本性がバレたの?」

「いやバレてない。でも、ちょっと厄介」


幾度となく同じ状況を経験してきた晴士を相手に、今更指示なんて必要ない。会話を続けながらも、テーブルセッティングは滞りなく進んでゆく。


「厄介ってさ、“一糸先生にとって”ってこと?」

「そう。ある先生のタバコが紛失したんだけど、例の子が持ってたんだよ」


呑みの席が完成したら、次は作業スペースだ。


テーブルから少し離れた場所にイーゼルを設置すると、隣に丸椅子を2つ並べ、その上にパレットと溶き油を置く。これで準備完了。


一息つくためにテーブル側の椅子へ腰を下ろし、もう一度晴士と缶ビールをかち合わせる。


「それで? 失くなったタバコ、その女の子が取ったってこと?」

「簡潔に説明すると、先生のタバコが失くなった。ある生徒達が、トイレでタバコの匂いがするって報告してきた。荷物検査をする直前で例の子が、自分が持ってると言い出した。って感じ」