入学式が終わり、息つく間もなく催された宿泊研修の最終日。生徒達が全員帰路に着くと同時に、教師陣の顔が一斉に緩んだ。


「春先生も慰労会行きますよね」

「すみません、週末は予定が入ってまして。朝が早いので今回は遠慮しておきます」


適当な言い訳を並べ、今日最後の作り笑いを桜井先生へ返す。

サービス残業なんて冗談じゃない。


荷物を車へ放り込むと、まずは一服。肺の奥深くまで浸透していくスモークを2度堪能してから、エンジンを掛けて走り出す。


ガキ共と過ごす2泊3日は地獄も同然だったが、個人的な収穫はあった。


椎名芙由はおそらく、例の女の子と同一人物だ。こちらを一切信用していない態度からして、ほぼ間違いない。


その一方で、椎名芙由はこちらに気づいていない可能性が高い。警戒しているわりには焼き鳥屋の話題は出ないので、表面上、普通に接していれば今後もバレないだろう。


ただ、今回の宿泊研修では新たな問題も発生した。


早くも精神的問題児っぷりを発揮しはじめた、椎名芙由。

本人が詳しく話したがらない以上、いくら追求しても無意味なのは分かっている。それでも、なかった事にはできない。


――――気に喰わねぇ。


消化不良な感情を持て余したままアトリエへ着くと、駐車スペースの一角に見覚えのある車が停まっていた。


「いつから待ってた?」

「さっきだよ。今日帰るって言ってたから、土産話を聞きに来た」


近づいてきた晴士が、両手に持った半透明のビニール袋を掲げる。ずっしりと中身が詰まっているそれは、たぶん、ビールとつまみだろう。



「で? 女子高生とあまーい体験はしましたか?」