「……コイツ何してんの?」

「足打って悶てる」

「あっそ。お前ら立て看板班だよな? 今日1年は休みにしたから伝えといて」

「えっ、ちょっ」


言い逃げしようとする成弥くんに手を伸ばす。


「ん? どした?」


掴まれた腕を解こうともせずキョトン、と見つめ返されて、ため息が零れた。


こういうふとした何気ない仕草も、王子様と呼ばれる要因の一つなのだろう。成弥くんは近寄りがたいオーラがあるのに、実際には誰も拒まない。


「なんでいきなり休み?」

「追加のペンキ発注すんの忘れてたから」


この一切悪びれない姿勢こそ、私が知っている成弥王子だけど。


「……リレーの件、まだ成弥くんを恨んでるからね」

「うわぁ、しつこい」

「お金チラつかせるとかズルイ」

「アーホ。あれはお前らを本気で走らせるためじゃん。実力がなきゃリレーには選ばれてねぇよ。んじゃ」


ヒラヒラと手を振って去っていく成弥くんを見ながら、もう一度ため息を吐く。


成弥くんはオレ様タイプな人間だけど、それが彼の全てではない。と、時折……極々稀に思う。


「芙由ってさ、ウチの兄ちゃん嫌い?」

「まさか」

「じゃーまぁ、どっか寄って帰りますか!」


何の脈略もないカンナの誘いに頷くと、黒板に連絡事項をでかでかと板書してから、私達は日頃通っているカフェへ向かった。




「芙由っ! 外ヤバイ雨だよ」