例えば、リレーの走順を決めるために、何度もグラウンドを走らされたとしよう。でも体育祭ってのは、“速さ”だけを求められるわけじゃない。


6限目のリレー練習でヘトヘトになっていても、やるべきことはまだ残っている。


「芙由、着替え持ってきた?」

「いま着てるのとタオルだけ」

「だよねー。汗かいたTシャツのままとかサイアク」

「でも制服にペンキ付くのも嫌じゃん」


5分前倒しで6限目が終わると、カンナとトイレへ直行し、首元にまとわりつく髪を高い位置で結び直す。簡単な終礼を挟んで、次は巨大立て看板の制作だ。


私達はラクさを優先して立て看板班を希望したが、結果はハズレ。放課後の忙しさは大して変わらないとしても、ペンキの汚れやシンナー臭と戦わなくていい分、応援用衣装班がマシだったかもしれない。


今日最後の号令がかかると、クラスメイト達は各々の担当に合わせて動き始める。


既に身支度は済んでいるので、まずは帰りが遅くなる旨を母親へ連絡。スマホを机の中へ戻したら次は――。


「カンナ動ける? 私、道具取りに行くけど」


自席でスマホをいじっていたカンナは、視線はそのままに、親指だけを立てた。


「がってん! ちょいまち!」


私の母親を真似た相槌は、いつの間にかカンナの口癖になりつつある。本人が気に入っているなら別にいいけど、何が良いのかよくわからない。


「よっしゃ終了! 芙由いこ――ッ!」


ガタンッ、と派手な音を鳴らして立ち上がったカンナに一歩引いた時、私だけでなく、教室中がざわついた。


「あーいたいた。芙由」


呼ばれて振り返ると、すぐ背後にいた成弥くんが白けたように目を細める。

みんなが反応したのはコッチか。