「芙由ッ! イケメン探すよっ!」

「…………ん?」

「だーかーらー、学校に1番乗りしてイケメン探しすんの」


――――ああ、なるほど。


要するに、登校してくる生徒を観察するためにこの時間に来た、と。それをうちの母親に話して、『イケメンの前でお腹が鳴る』になって、今の状況ってことか。


「芙由もやるっしょ?」

「えっ、あ、うん。別にいいけど」

「……なんかノリ悪くない? もう萩原(ハギワラ)とは別れ――」

「ちょっとカンナッ!」


元気が過ぎるカンナの声を、さらに大きな声で遮る。勢いよく腰を上げて、周囲を見渡してからため息を吐いた。


「もしかして、別れたこと由美ちゃんに言ってないの?」

「言うわけないじゃん。そもそも、付き合ってたのも報告したワケじゃないし」


なんとなく言い淀んでしまい、残りわずかなカフェオレに口をつける。


「じゃあさ、芙由の勘の良さって由美ちゃんの遺伝だね」

「……そんなことより、早くイケメン探しに行こうよ」

「お! 急に乗り気じゃーん!」


カンナが軽やかに立ち上がると、胸元で紅いリボンが跳ねた。


同じ高校に合格して同じ制服を着ていても、全てが一緒というわけじゃない。カンナはリボンを選ぶけど、私はネクタイを選ぶ。カンナはその時の気分で髪色を変えるけど、私は赤系の色でしか染めない。


……楓のこともそうだ。カンナは平然と名前を出すけど、私はまだ、あまり話題にしたくない。


「カンナ、スープ飲んじゃって。さっさと片付けて行こう」

「あ、ありがとっ」


“イケメン探し”に大して興味がなくても、カンナの気を逸らせるなら、それでいい――。