全てのジャガイモを洗い終えると、2人で一糸先生を探しに出る。気まずいとまでは思わないが、先生がすぐ見つかる場所に居てくれたのは救いだった。


「春先生、ピーラーありますか? 包丁でジャガイモの皮むきって大変で」

「ピーラーですか。沢村(サワムラ)先生なら分かると思いますが」

「沢村先生……」


私の独り言に、学年主任ですよ、と笑いながら先生が辺りを見回す。


「あー、多分あそこですね。椎名さん、昨日の場所分かります?」


なぜ私を名指しするのか。その答えは、先生の挙動の中にあった。


――困ったような表情でカモフラージュしながら、顎に添えた人差し指で唇を差し、トントン。


「大丈夫です。行ってみます」


先生のジェスチャーを読み解き、裏ボスへ軽く目配せをしてから再び歩き出す。


……不可解なのは、裏ボスが何一つ尋ねてこないこと。


今のやり取りは何だったのか、どこへ向かっているのか。私が裏ボスの立場なら絶対に気になるが、後ろをついてくる彼女は咳払いすらしない。


裏ボスの存在を認知してから、たったの2日。彼女の人柄を判断する材料はほぼない。ついでに言うと私は、蛇がいると分かっているヤブを突く趣味もないし、先陣を切って蛇に対峙するほどの積極性も備わっていない。


だけど――。



一糸先生と昨夜遭った中庭へと近づいた時、灰皿の隣に佇んでいた中年男性がこちらに気づいた。


「あの……沢村先生?」

「ん、どうした?」


歩み寄りながら半信半疑で名前を呼ぶと、返事とともに白い煙が吐き出される。