下山後、休憩を挟んだのちに夕食の準備が始まった。宿泊研修2日目の今日は、クラスごとにカレーなどを作るらしい。


私はカレー用野菜の仕込み担当だった。サラダ班のカンナとは離れてしまったが、親睦を深める目的で班分けされているそうなので、こればかりはしょうがない。


「また後でね、カンナ」

「……うん。芙由、元気でね」

「はいはい、カンナもね」


オリーブ色の頭に子犬みたいな垂れ耳が付いていても、構わず洗い場へ移動する。


カンナは大丈夫。私よりも人付き合いが上手いから、きっと10分もすれば、どこからともなくあの陽気な声が聞こえてくるはず。


それよりも、私が今考えるべきなのは目の前にあるコレ。ひと目で業務用品だと分かる巨大なボウルに、溢れんばかりに盛られたジャガイモをどう処理するか。


「これ、ピーラー欲しいわね」


そう呟きながら隣に立ったのは、裏ボスだった。


手から逃げ出そうとするジャガイモを捕まえ、何食わぬ顔を貫く。


「あ、うん。包丁で皮むきはちょっと怖いね」


腕がぶつからないギリギリの距離に並ぶと、ただひたすらにジャガイモを水洗いしていく。至る所から聞こえてくる笑い声は、ここには生まれない。


……というか、この状況にも裏ボスの態度にも、正直釈然としない。


お昼の一件で完全に敵視されたと思っていたのだが、深読みし過ぎだっただろうか。それとも、私は眼中にないだけか。


いや、そんなはずはない――たぶん。


「洗い終わったら春先生に訊いてみる?」

「ん?」

「ピーラーよ」

「あ、そうだね」