「……前に送った女の子、たぶん受け持ちの生徒」

『焼き鳥屋の? イット的には最悪じゃん!』

「まだ確定じゃないけど」

『んじゃ、とりあえず探り入れなきゃだ?』


晴士は笑い混じりに話すが、なにも面白くない。なんせこっちは、あの時本性を晒してしまっている。


『あっ、かわい子ちゃんが呼んでるから切るね。順次報告よろしく!』


一方的に切れたスマホをひと睨みして、灰皿の上でタバコを弾く。


探るとは言っても、どうしたものか。

手っ取り早く解決したいが、直球勝負はリスクしかない。もし同一人物であっても、相手が気づいていなければ問題ないのだ。


まずは距離を縮めることから、か。


――そう結論付けた矢先、昨日の今日で早速チャンスが訪れた。



「椎名さんはいつも口数が少ないタイプですか?」


手始めに人柄をチェック――と思ったが、そんな簡単にいくわけもなく。彼女がばら撒いた宿泊研修のしおりを拾っている間に、攻守が変わった。

否、明らかに話題の矛先を替えられた。


だが神様は、まだ見放していなかったらしい。


昨年、講師として雇われていた時から休憩所にしていた旧校舎の屋上。いつものように終業後の一服へ向かうと、そこには椎名芙由が居た。


知りたいのは一つだけ。でも、攻めに転ずるきっかけすらなかなか掴めない。


友人である榎本カンナとは対照的に、椎名芙由はそもそもあまり喋らない。おまけに、こちらを品定めしているかのような、疑いの目を向けてくる始末。

この視線は、人としての査定なのか。はたまた、以前会った人物かの確認か。


何気ない会話の中で様子をうかがってみたが、唯一知れたのは、カフェオレを好む点が同じ、ということくらいだった。