――なぜ、彼女を放っておけなかったのか。

それは多分、少しだけ同調したから。


人付き合いの中で、作られた自分を演じる人間は少なくない。本心を隠して上辺だけで会話を繋ぐ人もいれば、コミュニティに合わせて自身の雰囲気から何から変える人もいる。

でもそれは、ラクだから、という前提ありきの話だ。


彼女が演じる“彼女”は、見ているこっちが顔をしかめたくなるくらいに、息苦しそうだった。


身に覚えがあるからこその衝動、とでも言うのだろうか。気づけば手を伸ばしていたし、去り際にまで余計な世話を焼いてしまった。


『……背伸びは良いけど無理すんな』


ガキなんて好きじゃない。恋人と別れた程度でビービー泣くなんてくだらない。ついでに、自分のことばかり責めるようなクソ真面目な奴も、見ていて気分が悪い。




「おつかれー! 先にやってるよ」

「ああ」


店の中へと戻ると、上着はそのままに晴士の隣へ腰を下ろす。数十分前まで座っていたカウンター席は、さも最初から2人組で来店していたかのようにゴチャついているが、まあいい。


「とあちゃん、ありがとな!」

「どういたしまして」


お礼と一緒に差し出されたビールジョッキは、霜がビッシリと付着していた。


流し込んだビールに身震いするほどの寒さを感じたのは一瞬で、すぐにそれは火照りへと変わる。


「で、可愛い女の子との進展は?」

「キレられて、缶コーヒーを2本奢っただけ」

「え、意味わかんない」

「同じく」