離れていく後ろ姿に、似合ってるじゃん、と微笑む。


――ウーロン茶でよかったかな?

頭の片隅にあったそんなわずかな心配は、口に出さなくても自然と消えていった。


「それじゃ。えーっと、今日は3年2組の卒業祝いとーっ……と?」


彼が言葉に詰まるだけで、みんなが一斉に笑い出す。


このクラスにおいて、彼の存在は指針であり起爆剤だった。今もそうだが、クラス委員長ですら、大事な場面は彼に託してきた。


「ちょっ笑うな、ストーップ! とりあえず先生、何か一言お願いします」


部屋の端から端へ、全員の頭上を越えてバトンが飛ぶ。


指名されたこの場で唯一の成人男性は、照れくさそうに首元を掻き、グラスを持ってゆっくりと腰を上げた。


「んん、そうだな。……5年後にまたここで、今度は皆とお酒を酌み交わせることを楽しみにしてます。卒業おめでとー」


先生がグラスを掲げたのを合図に、思い思いの言葉と一緒にグラスを突き出しては、軽快な音を鳴らし合う。

今日で終わり。そう思うと、ひとりひとりと交わす乾杯が尊く感じた。


――だが、どこか冷めた自分がいるのも事実。

ここに未練はない。


「はい、かんぱい」


隣へ戻ってきた人気者が、至って自然に、こちらの表情を覗くようにグラスを差し出す。


「おつかれ、楓」

「うん」


微笑み合ってグラスを重ねる。ただその音は、既に再開された周囲の会話に紛れるほど小さかった。