20年来の付き合いともなると、喧嘩腰な会話はほぼなくなった。というより、わざわざ口に出さなくなった、と言う方が正しいかもしれない。


「で? 何の用?」


手に持ったマグを1つだけ晴士に押し付け、ソファの右端へ腰を下ろす。


「別に急ぎじゃなかったんだけど、近くに用事があったついでにネッ!」

「ね!じゃなくて、用件」

「今やってる作品ってそろそろ終わる? ってか今週末ヒマ?」


斜向いに腰を落ち着けながらの晴士の言葉に、ハッとした。

そうだ。何をやるにしても、まずは手掛けている作品を仕上げないと、今後はあまり時間が取れない。


「聞いてる? 今週ま――」

「無理」


晴士を遮り即答すると、靴下を脱ぎ、スラックスからスウェットへ着替える。


「ねぇちょっと、何で無理なのさ!」

「創作に時間充てたい」


――――シャツは、まあいいか。


「えー。合コンしようよ、俺達まだ23よ?」

「お互い来月には24だろ」

「一緒だよ! 四捨五入すれば20じゃん」


ふて腐れたようにゴネる晴士を放って、作業部屋へと移る。たとえ付き纏われようが、背後から『ご、う、こ、ん!』と恨めしい声がしようが、構っている暇はない。


「あっ晴士、洗面台からゴム持ってきて」

「えーっ……合コン」

「もういい」

「あーうそうそ! 持ってきますよーだ」


ぶつくさと諦めの悪い小言は聞き流し、壁に掛けていた途中段階の作品に合わせて、必要な道具を整える。