「なんでそんな顔すんだよ、まだ1週間しか経ってないんだ。そんなすぐにうまくいったらそれこそ怖ぇよ」

「……だって、もっとうまくやれると思ってたから。今まではもう少しうまくやれてた」

「でもさ、俺も全然うまくやれてなかったじゃん?
ずっと填本に任せっきりでさ。俺もちゃんと話しかけたりしないといけないのに、うまく話せなかった。
俺、自分がこんなに腑抜けだなんて思わなかった」



千崎くんは、自嘲気味な笑みをこぼして、頭をガシガシと雑に搔く。



「それにさ、まだこの気持ちが好きかもハッキリしてないし、俺はこれが恋なのか一喜一憂しながら進みたいんだ」



換気のために開けた窓から、心地よい風が幸せを運んできたような気がした。


千崎くんは、どうしてこうも自分の気持ちに疎いのだろう。

うまく話せなかった、と嘆くことは、もう好きだってことなんだよ。

そんなふうに、どこか楽しそうに笑えるのは、もう既に一喜一憂しながら誰かを想ってるってことなんだよ。


でも、教えてあげない。

それが好きなんだよ、とは私からは言わない。


千崎くんがゆっくりと進みたいなら、私の恋もゆっくりと終わらせる。

だからせめて、まだ好きでいさせて。


千崎くんの恋を全力で応援するって誓う代わりに、もう少しだけ好きでいさせて欲しい。